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第2話 作家のクセを読め!③

last update publish date: 2026-07-23 15:00:16

 ―――現代・日本―――

「……すごい。本当にリアルタイムで話してる」

 由奈はスマホを持つ手をギュッと握りしめていた。

 手のひらに汗が滲み、心臓が、ドク、ドク、と早鐘を打っている。

「間違いなく王様に私の声が届いてる」

 誰に聞かせるでもなく、ぽつりと呟いた。

 信じられない。

 けれど、事実だ。

 自分の声が、画面の向こうの王様に届いている。

 しかし由奈は混乱していた。

 小説の中の人物とリアルタイムで会話している?

 そんなことがあり得るのか?

 これは夢なのか?

 それとも、何か別の現象なのか?

 由奈は、もう一度ページを読み返した。

 指が震わせながら、画面をスクロールする。

 そこには、『謎の声』というワードと共に、自分のセリフを彷彿とさせる文言が追加されていた。

 「説明・共感・感謝」

 確かに自分が言った言葉だ。

 そして、王様も自分の助言を実行してくれた。

 シグルに、ちゃんと説明し、感謝を伝えた。

 由奈は、そのままコメント欄をスクロールした。

 そこには、読者たちの反応が並んでいる。

《謎の声のキャラ好き!》

《導き手ポジ面白い》

《正体誰!?》

《この声の主、絶対重要キャラだよね》

《次回が楽しみすぎる》

(や、やっぱり……これ、私だよね!?)

 由奈の胸が高鳴る。

 自分の言葉が、物語の一部になっている。

 そして読者たちが、自分の存在を楽しみにしている。

 現実ではあり得ない、奇妙な感覚に少しだけ嬉しかった。

 さらに本文では、レオンが「名前は——」と尋ねかけていた。

 そこで、シグルが戻ってきて、言葉が途切れている。

 けれど、次があるならば、確実に自分の名前を聞かれるだろう。

 そこを読んだ瞬間、由奈の心臓がドクンと跳ねる。

(もし次に名前を聞かれたら……どうするの!?)

 由奈は考えた。

 現実の名前を出すのはむずがゆいし、身バレでもしたら厄介だ。

 でも、匿名っぽい呼び名は必要だろう。

 何か、·······が欲しい。

「……じゃあ、家族の頭文字から取ろうかな」

 AKIRA、YUNA、KANAME、ASUKA

 その中から、彼女は「AYKA」を並べ替えて、「KAYA」という名前を決めた。

(よし、今度聞かれたら……『カヤ』って答えよう)

 そう決めた瞬間、由奈は妙な笑いをこらえきれなくなった。

(いや待って、なんか異世界ネーム感あってちょっとカッコよくない? 『導き手カヤ』とか、まるで隠れヒロインじゃない!)

 小説オタク心が変な方向にテンションを上げ、由奈はスマホを抱きしめて小さく身悶えした。

「カヤ……カヤ……うん、悪くない!」

 由奈は小さく頷いた。

 そして、気を取り直して、画面に戻る。

「とりあえず……王様、今度は后候補イベントよね」

 由奈は作者のパターンを思い出しながら呟く。

「絶対やらかすわよ、この人のタイプなら。3人まとめて傷つけるような発言して、泥沼イベントに突入しそう……」

 そこで由奈は気づいた。

 もし本当にこのまま王様に『導き手カヤ』として自分の声が届くなら。

「私が止めないと、前世と同じように王様は死んでしまうんじゃ……」

 どこか自分の旦那と重ね合わせて見ているせいか、バッドエンドが待っているであろう後味の悪い展開に居ても立っても居られない。

 由奈は決意した。

 もはや小説を読んでいるだけの立場ではない。

 王様の、そして王国の運命に関わっている。

「でも……私なんかが本当に役に立つのかしら?」

 胸の奥で、不安がじわじわと広がる。

 自分はただの主婦で、特別なスキルなんて一つもない。

 家事や子育ての経験はあっても、異世界の知識なんて小説でかじった程度だ。

(旦那にも、本当は言いたいことがたくさんあった。家事の分担や育児に対しても。でも、口に出したことなんて一度もない。言葉で制されると分かっているから、喧嘩することすら諦めてきた)

 由奈は、自分の人生を振り返った。

 これまでの夫との関係。

 言いたいことを飲み込んできた日々。

 我慢してきた感情。

 それらが積み重なって、今の自分がある。

 ――そんな自分に、王様を導くなんてできるの?

 ほかの転生モノみたいに『チート能力』があるわけでもない。

 ただの読書好きの主婦。

 だからこそ、足元がぐらぐらしているような不安が、どうしても拭えなかった。

 けれど、その時ふとした出来事を思い出した。

 いつもは適当に教えていたのだが、あの日は違った。

 息子の要に宿題を教えた時、丁寧に意識して諭すような口調にしてみた。

 それだけで、要は笑ってこう言ってくれた。

『ママ、昨日すごくわかりやすかった!』

 その笑顔は、小さな自信をくれた。

 自分の言葉が、誰かに届いた。

 誰かを、少しだけ笑顔に変えた。

(もしかして……私の言葉だって、誰かを変えられるのかもしれない)

 そう思った瞬間、由奈の中でほんの少しだけ、勇気の芽が顔を出した。

 翌日。

 スマートフォンに更新通知が来た。

『第3話 后候補との面談』

「やっぱり来た……」

 由奈はフゥ、と深く息を吸い、第3話を開いた。

 画面には、美しい3人の女性がレオンの前に立っている場面が描かれていた。

(王様……絶対に変なこと言っちゃダメよ……!)

 由奈は祈るような気持ちで、物語の続きを見守った。

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